第6章 望んで成長できる環境を、どう作るか

意欲を求める前に、取り組める条件を見る

子ども自身が望んで成長できる環境と言うと、大きな仕組みを新しく作らなければならないように感じるかもしれません。私は、日々の練習や家庭でのやり取りにも、見直せる部分があると考えています。

ここでは、選べること、失敗できること、成長が見えること、認められること、遊べること、という五つの観点を用います。これは私が関わり方を整理するための枠組みであり、五つを揃えれば効果が出ると検証された手順ではありません。以下の例も、実施済みの実践報告ではなく、作者からの提案です。

研究上の手がかりとして、MageauとVallerandの2003年の論文は、指導者と選手の関係を動機づけのモデルとして整理しています。選べる機会に加え、課題や制限の理由を説明し、本人の気持ちを認め、必要な枠組みと関与を提供することを扱っています。単一の介入実験ではなく、モデルと関連研究を論じた文献です。R11:Mageau・Vallerand(2003)、Table 1と関連節

この考えを手がかりにしつつ、家庭とクラブの事情、年代、本人の状態に合わせて、実際に何を変えられるかを考えます。

選べること――選択の範囲と理由を明らかにする

私は、何でも本人に決めさせることを目標にはしていません。安全、時間、場所、集団での約束など、選べないこともあります。その制限を隠さず、何なら考えられるかを確かめたいと思います。

クラブでの例なら、練習全体の目的は共有し、その中で本人が重点を置きたい点を選ぶことが考えられます。家庭なら、決められた時間の中で、今日は何を試すか、いつ始めるかを話し合えるかもしれません。

選んだ結果が大人の予想と違っても、すぐに選び直させないことを意識したいと思います。必要な条件に反していなければ、まずその理由を聞く。本人には見えていなかった事情があるなら説明し、改めて考えられるようにします。

大人が望む答えしか認めないのであれば、選択の形だけを用意しても、本人には選べたと感じられないかもしれません。「選んだのだから責任を取れ」と迫る前に、何がわかり、何が選べたかを大人も確かめる。その姿勢を含めて、選べる環境と考えたいのです。

失敗できること――試みを振り返れる場所を残す

失敗できることは、危険な行為を許すことでも、何も振り返らなくてよいことでもありません。安全やルールを守ったうえで、新しいことを試し、結果を一緒に考えられることを指しています。

たとえば、新しい方法を試す練習なら、始める前に何を試すかを一つ共有する。終わったあとに、成功回数だけでなく、何がわかったかを聞く。

失敗した場面を、大勢の前でその子の能力全体の話に広げないようにしたいと思います。どこで難しくなったか、何を見ていたか、次に何を変えられそうか。扱う対象を具体的にすれば、本人も話を持ち帰りやすいのではないでしょうか。

試す機会が限られている場合もあります。そのときは、いつなら練習できるか、負担の少ない場面を用意できるかを考えます。本人の勇気だけに期待するのではなく、試せる場をつくることも、大人の仕事に含めたいと思います。

成長が見えること――他人との順位以外を確かめる

成長を見えるようにするというと、数字や記録を増やす方法が思い浮かびます。しかし、すべてを数える必要はないと私は考えます。本人が取り組んでいたことについて、以前と何が違うかを確かめられれば、そこから始められます。

仮想の例として、試合のあとに一つだけ、試せたプレーを本人に選んでもらうことが考えられます。大人が先に正解を示すより、本人が何を変化として見ているかを知るためです。うまく言えないときは、思い出せる場面を一緒に探してもよいでしょう。

記録を使うなら、その記録を何のために残すかも共有したいと思います。毎回の数値で評価を下すためか、試したことを覚えておくためかで、本人の受け止め方は違うかもしれません。記録が次の課題を考える助けになっているかを、時々見直します。

成長が見えることを、毎日よくならなければならないという要求に変えないことも大切です。変化が見つからない日や、結果が下がる時期も含めて、その子が取り組んでいることを見たいと思います。

認められること――見ていたものを、具体的に伝える

認めるという言葉を、何でもよいと褒めることにはしたくありません。大人が何を見ていたかを具体的に伝え、本人の見方も聞けることを大切にしたいと思います。

たとえば、勝てなかった試合でも、練習で取り組んだ方法を試す場面があったなら、そのことを話題にできます。「よく頑張った」で終わる代わりに、どの場面で何を見たかを伝える。本人は違うことを考えていたかもしれないので、その説明も聞く。これも、作者が提案する対話の例です。

結果がよかったときにも、同じ姿勢を持ちたいと思います。成功の理由を一人の才能だけに集めず、本人が考えたこと、周囲と協力したこと、まだわからないことも確かめる。成功を次の試みに開くための振り返りにします。

すぐに話したくないときまで、話すことを求める必要はありません。見ていたことを短く伝え、本人から話す機会を待つこともできます。対話をしたという大人側の実績より、本人が話せる関係を残せたかを考えたいのです。

遊べること――予定された課題以外にも余地をつくる

私は、遊びを、真剣な取り組みの反対側には置きたくありません。自分で条件を変えたり、思いついたことを試したりする時間にも、意味を持たせたいと思います。

たとえば、安全な範囲で小さなルールを選び、仲間とゲームを作ってみることが考えられます。人数や場所の条件に合わせて、どうすれば成立するかを相談する。大人がすべてを決める前に、本人たちが工夫できる部分を探します。

安全な場所を確保し、参加しにくい子がいないかを見ながら、その場の楽しさや困りごとを確かめます。自由な遊びを用意するだけで何かが必ず身につく、と決めずに見ていきたいと思います。

競技の上達に結びついたかどうかだけで遊びの価値を判断することにも、慎重でありたいと思います。本人が楽しんだこと、友達と関われたこと自体も、大切にしたい経験です。

家庭とクラブで、役割を分けて支える

保護者が指導者と同じように、すべてのプレーを教える必要はありません。クラブで取り組んでいることを理解しつつ、家庭では生活や気持ちを支える役割を持てると思います。

一方、クラブ側も、家庭の時間や負担を無制限に使えると考えないようにしたいものです。送迎、費用、学校、ほかの家族の予定など、取り組める条件は違います。練習の追加量を、そのまま意欲の評価にしないことも必要だと思います。

大人同士で方針が違うなら、本人に二つの正解の間を行き来させる前に、何を共有できるかを話す。勝敗と本人の試みのどちらをどう見るか、反則にはどう対応するか。その基準を、子どものいないところでも整えておきたいと思います。

一つ変えて、本人の受け止め方を確かめる

五つの観点を一度に実現しようとすると、大人の仕事が増え、子どもにも新しい要求が増えるかもしれません。私は、まず一つの場面を選び、何を変えられるか考えるところからでよいと思います。

課題の理由を説明し直す。選べる点を一つ増やす。試したことを振り返る時間を短くつくる。そのあと、本人にとって役立ったか、負担になったかを確かめます。うまくいかなければ、大人の方法も変えます。

この章の提案を採用したかどうかで、よい保護者や指導者を判定するつもりはありません。子どもが望んで取り組めるかを、子どもの中だけの問題にせず、大人が整えられる条件へ目を向ける。そのための五つの観点として、使っていただければと思います。

参考文献・用語

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